ユーラシア経済ニュース

日本であまり報道されない、ユーラシア大陸の経済ニュース記事を翻訳して紹介しています。

子供にどういう能力を伸ばさせるべきなのか

 私のYouTubeチャンネルの視聴者層は45歳以上が圧倒的に多く、全体の約50%以上を占めている。その層は子供の教育や高校受験・大学受験といったテーマにも関心があるだろう。

 

 私は地方の公立高校から東京大学文科II類に現役で合格したし、その後順天堂大学医学部と日本大学医学部の筆記試験にも合格した(面接でハネられてしまったが)。つまり文理に渡る各科目について詳しいし、勉強法や受験テクニックにも詳しい。なので視聴者層にとって役に立つ見解を提供することができるだろうということで、受験ネタもやっていきたいと思う。

 

 表題にもあるとおり「どういう能力を伸ばさせるべきなのか」というのは悩みの種だと思う。東大を始めとする有名大学に入って、大企業に就職すれば安泰・・・という時代はとっくの昔に過ぎ去った。かといって英語やプログラミングをやればいいというわけでもない。ましてやYouTuberになればいいというものでもない。

 

 まず語学については、自動翻訳の性能が圧倒的に向上している。さらに音声読み上げの性能ももの凄く向上している。グーグル翻訳は無料だし、音声読み上げに関してもクラウド上のサービスで、英語の文章を読み上げのファイルにしてくれるサービスが月額99ドルで利用できる。つまり月1万円程度だ。私はNatural Readersというものを使っているが、自然なナレーションを作ってくれる。自分の動画を宣伝するわけではないが、この自動読み上げを使って作った動画がこちらだ。さらに恐ろしいことに、このNatural Readersは英語のみならず日本語を含む26カ国語に対応している。ヒンドゥー語ロシア語中国語で作ってみたポッドキャストのリンクも貼っておく。

 

 これはつまり、中途半端な語学力やスピーキング能力を身につけたところで全く仕事につながらない、ということだ。ちょっとした情報や案内を伝えるための音声なら、AIで作れてしまう。近い将来に日本語でしゃべった内容をほぼリアルタイムで英語に吹き替えしてくれるサービスもタダみたいな値段で提供されるようになってくる。そうなると英語を勉強する意味がまったくわからなくなってしまう。子供としても、「単に受験で必要だから」という理由でイヤイヤ勉強するのでは学習意欲も湧かないし身に付かないだろう。

 

 次にプログラミングであるが、これは圧倒的な才能がなければ意味のない世界だ。インドや中国の、超一流の教育を受けたソフトウェアエンジニアと競っていかなければならない領域だ。また、ソフトウェアの分野ではあらゆる機能が標準装備されるようになっていく。つまり、苦労してある機能を作ったとしても、グーグルやアップル、マイクロソフトといった超巨大企業が似たものをタダで提供してくる。たとえば少し前にClubhouseという音声交流SNSが流行ったが一瞬にしてTwitterのSpaceという機能で代替されてしまった。TikTokが流行ればYouTubeが似たShorts機能を付ける。Slackが流行ればマイクロソフトがTeamsで攻勢をかける。

 

 このように、いわゆる従来型の「スキル」や「知識」というものはあっという間にソフトウェアで代替されてしまう時代になっている。我々よりもスマホクラウドサービスに慣れ親しんでいる若い世代は、多かれ少なかれその現実を肌身で感じているはずだ。にも関わらず受験勉強をする意味をどのように説明するのか、どういう能力を身につけるために勉強してもらえばいいのか。

 

 答えは簡単で、身につけるべき能力は国語力だ。つまり日本語で論理的に思考する力である。英語もプログラミングも、使いこなす土台となるのは日本語で論理を組み立てる力だ。

 

 グーグル翻訳を使いこなすためには、機械が翻訳しやすい日本語の文章が書けなければならない。主語と述語がはっきりしており、修飾語が何をどう修飾しているのかが明瞭な文章でなければちゃんとした翻訳にならない。翻訳された文章が良いのかマズいのかは、英語圏の思想や哲学に関する知識がなければ判断できないが、そういう知識は日本語でも翻訳者が書いたエッセイなどから得ることができる。また、大学受験レベルの英語でも英語圏の考え方の片鱗には十分触れることができる。東大の英語の問題など英語圏の思想が分かっているかを問うているようなものだ。

 

 プログラミングも、どのような対象をどうやって処理するのかということが明確に日本語で言語化できれば、その処理を機械にやらせることはどんどん簡単になっている。プロのソフトウェアエンジニアになろうとするときも、レベルの高いエンジニアになるために必要なのはハードウェアの知識だったり、そもそもコンピュータがどのように情報を処理しているかのサイエンスの知識だったりする。処理速度を早くするために必要なのはメモリ上にどのようにデータを展開するかだったり、サーバーとの通信をどんなふうにパソコンが処理しているかだったりを理解していることで、それが分かっていればコーディング自体はさほど問題にならない。

 

 論理の筋が通ったきちんとした日本語を書くことができれば、それを英語を始めとする各国語に翻訳したり、コンピュータープログラムに落とし込むことは容易だ。さらに、新しい技術や制度、考え方が出てきたときにも、きちんと論理を追う習慣と力が身に付いていればすぐに知識や技術にもキャッチアップできる。つまりいろいろなことが起こっても対処できる力になっていく。

 

 だから子供に身につけさせるべきは国語力であって、古典を始めとする文章をたくさん読ませることだ。

 

 では何から読めばいいのか。

 

 とりあえず、三島由紀夫『若きサムライのために』、 水村美苗『日本語が滅びるとき』を推奨しておく。