ユーラシア経済ニュース

日本であまり報道されない、ユーラシア大陸の経済ニュース記事を翻訳して紹介しています。

プーチンと欧米が真に協議していること

※元記事はFantiaに投稿したものです。

fantia.jp

 

ロシアでのウクライナ戦争が6日目に突入しようとしている。西側のマスコミは相変わらずプーチン・ロシアを悪の帝国主義の権化として非難し続けているが、軍も派遣しないプロレスに騙される前に備えるべきは経済危機だ。この経済危機はウクライナ攻撃に始まったものではないが、ロシアの攻撃とそれに対するアメリカ・EUの自滅的な制裁によってより酷いものになっている。具体的に述べればサプライチェーン危機・物流の滞留、肥料価格・食糧価格の高騰を通じた食糧危機だ。それに加えてサイバー攻撃が大量に行われている。今回はそうした状況について概観したのち、こうした動乱の水面下でプーチンと欧米・NATOが本当に協議していることは何なのかについて考察してみる。

 

サプライチェーンの危機_金属、エネルギーすべて高騰へ

ロシアはニッケルの供給量世界3位であり、パラジウムでは世界シェアの4割を占めている。米国の半導体用ネオンの9割もウクライナから輸入される。ウクライナはネオン以外にも、18族の希ガス元素(アルゴン、クリプトン、キセノン)の主要産出国として知られている。ニッケルは充電池に欠かせない金属で、ニッケル協会によれば世界のニッケル使用量は毎年4%成長、ニッケルを含有するステンレス鋼の使用量は毎年6%成長しているという。パラジウムは自身の体積の935倍の水素を内部に吸着させることができる。この性質を利用して混合ガスから水素のみを選り分けて高純度水素を作ることができるようになるため、半導体やLED、燃料電池向けの高純度水素を作るのに欠かせない金属だ。半導体生産の原材料や、レアメタルについてアメリカはロシア・ウクライナに大きく依存しており、制裁はこういった資源の価格を高騰させたり調達を困難にすることで自らのクビを占めるだけになる。アメリカやEUが被害を被るだけならまだしも、日本の一般消費者や企業にも大きく影響する。すでに半導体不足で洗濯機やカメラといった商品の店頭在庫が消え、入荷待ちとなっている。(ウクライナ危機でサプライチェーン混乱、現地工場の操業停止相次ぐ)(パラジウム膜による水素透過のメカニズム

 

こうした工業製品の原材料だけでなく、ロシア・ウクライナは小麦・大麦・トウモロコシの主要輸出国であり、ロシアは世界の小麦輸出量の約2割を占めるトップ輸出国で、ウクライナはトウモロコシの輸出量のシェア16%を占める。食糧備蓄のための乾パンや長期保存パンも高騰するかもしれないから、今のうちに買っておいたほうがいいだろう。(ウクライナ危機、穀物相場 高騰の兆し 日本国内

 

そもそもモノが不足したり輸出入が行われなくなっている上に、物流も不安定だ。アメリカでは港湾や小売店で人手が大量に不足している。カナダのトラック運転手に対するワクチン義務化に反対する抗議運動であるフリーダム・コンボイアメリカにも波及し、こちらではピープルズコンボイと呼ばれている。公式サイトからの情報によれば、ピープルズコンボイは2月23日にカリフォルニア州アデラントを出発し、3月5日にワシントンD.C.に到着するスケジュールだという。この運動をどう見るかについては意見が分かれるところだろうが、物流に影響が出ることは間違いないだろう。(American Truckers are launching The People’s Convoy, a peaceful and unified transcontinental movement, on February 23 from Adelanto Stadium in Southern California(PDF))('People's Convoy' Releases Official Route — Will 'Freedom' Truckers Pass Through Your City?

 

サイバー攻撃

ロシア・ウクライナサイバー攻撃が相次いでおり、ロシアのウクライナ攻撃の前後にはウクライナ国防省や銀行のサイトがアクセス不可の状態になっていたほか、ハッカー集団「アノニマス」は2月25日にロシアに対して「サイバー戦争」の宣戦布告を行った。彼らはロシアの主要なニュースサイトをダウンさせ、「戦争を止めろ」というメッセージを表示させている。TASSやコメルサント、イズベスチヤ、RTといったサイトで攻撃が確認されている。私も頻繁に見ているが、確かにここ数日つながりにくいケースが増えており、この記事を書いている最中にもコメルサントやガスプロムのウェブサイトにアクセスできない状態になっている。私の仕事にも差し障るので本当に迷惑な話だ。TASSやRTはEUの制裁の対象としてEU圏からのアクセスも遮断されている。トヨタも2月28日、取引先の部品メーカーである小島プレス工業サイバー攻撃を受けたため国内にある全14工場の28ラインを1日停止させると発表した。(トヨタ、取引先にサイバー攻撃か-1日に国内全工場を稼働停止へ)(Websites of major Russian media taken down by hackers

 

ドイツはさらに自滅的なことをやっている。ショルツ首相は27日、1,000億ユーロ(約13兆円)を軍隊を近代化するために投じ、2024年までに対GDP比で少なくとも2%を軍事費に費やすと述べた。ドイツはすでに長年の「紛争地域に武器を送らない」という方針を曲げて、ウクライナに1,000台の対戦車兵器・パンツァーファウスト3と500台のスティンガーミサイルを送ることを決定していた。さらに2035年までにクリーンエネルギーで100%のエネルギーをまかなうことを目指しているとロイターが報じている。冷静に考えればノルドストリーム2の稼働承認を進め、ロシアから安価なガスを買って欧州に平和をもたらせばよさそうなものだが、そうはいかない事情がショルツにはあるらしい。(Germany to hike defense spending, buy new weapons)(Germany aims to get 100% of energy from renewable sources by 2035)(Weapons made in German-Israeli factory being sent to Ukraine

 

パンツァーファウストはもともとナチスドイツで開発された兵器で、日本語では「対戦車投擲弾発射無反動砲」などと呼ばれる。「対戦車」は文字通り歩兵が戦車を攻撃するためのものであることを意味し、「投擲弾」は自力で推進力を持たない弾薬を発射することを意味する。弾薬自身は推進力を持たないので、後方に爆風を飛ばすことで作用・反作用の法則で使用者に発射時の反動がかかることを防ぐ「無反動砲」だ。たまに戦争映画で、ゲリラがうっかりこれの背後に入って吹き飛ばされるシーンが描かれている。日本でロケットランチャーとして一般的に言われているのは、パンツァーファウストをもとにソ連が開発したRPG-7で、これは一人称視点のシューティングゲームなどでよく登場する。(パンツァーファウスト)(FIM-92 Stinger

 

パンツァーファウストもスティンガーも市街地で民間人に紛れたゲリラがビル陰などから戦車や戦闘ヘリを攻撃するための武器だ。ロシア軍は国際法に則り、ウクライナの民間人や民用物を攻撃しないようにしながら戦争を進めているが、ウクライナにこれらの武器が渡り、主要都市でゲリラ的にロシア軍に対する攻撃が始まると、民間人も巻き込まれ非戦闘員の死傷者が出て、双方が責任を押しつけ合う形になり泥沼化する。非戦闘区域においてスティンガーの攻撃でヘリが落ちたりしたら最悪だ。このあたりはリドリー・スコットの映画「ブラック・ホーク・ダウン」を観るとイメージしやすいだろう。(ブラック・ホーク・ダウン

 

しかし実際にはウクライナの制空権はロシアが握っており、武器を運ぶには陸路しかない。EUは狂ったように経済制裁を打ち出しているが、実際にはブラフで、本質的な意味合いのないものばかりだ。水面下ではおそらくこの件に関する駆け引きが行われている。ポーランドなどの周辺国はもしNATO側の味方をして武器の運搬に協力したら、あとあと確実にロシアに破滅させられる。プーチンは核にも言及しているが、真の意図は欧州を脅すというよりは周辺国の牽制だろう。