ユーラシア経済ニュース

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SPACを取り締まるSEC

SPACを取り締まるSEC

 アメリカ証券取引委員会(SEC)はSPACを取り締まり始めている。SPACは特別目的買収会社(Special Purpose Acquisition Company)のことだ。2017年ごろから見られるようになり、2020年の半ばから急激に増加した。買収するための資金だけを集めた会社を作って上場させてさらに資金を集める。その資金によって既存の会社を買収する、というスキームだ。SPACの設立当初に資金を集めるために、ワラントというものが発行される。このワラントとは株式そのものではなく株式を買う権利である。コールオプションとかストックオプションに近いものだ。上場するには当然自己資本要件というものがある。たとえば日本市場でも、東証一部に上場するためには連結純資産の額が50億円以上なければならない。

 SPACのスキームではこのワラントも株式と同じ扱いにすることで上場審査の自己資本要件をクリアしていたが、今年の4月にSECは、SPACが発行するワラントは負債であって、資本性資金ではないとする見解を出していた。会社が調達する資金は負債性資金と資本性資金に分けられ、貸借対照表上は負債、純資産として計上される。株式会社という制度で前提とされているのは、払い込んだ資本金というのは基本的に償還されない、つまり株式に投じたカネはその会社によって払い戻されてはならないということだ。資本の所有者つまり株主は、配当を得るか、株式を第三者に売却して譲渡益を得るかのいずれかの方法によって株式から金銭的リターンを得るものであって、投資先企業に株式を買ってもらう=償還(払戻)を受けるのでは資本とはいえない、これは負債にしろ、というのがSECの立場である。(Staff Statement on Accounting and Reporting Considerations for Warrants Issued by Special Purpose Acquisition Companies (“SPACs”)

 そうなると資本が減って負債が増えることになり、最低資本要件にひっかかってくることになる。だが即上場廃止というわけではない。あまり知られていないがNASDAQは三つの市場に分かれており、ナスダックグローバルセレクトマーケット、グローバルマーケット、キャピタルマーケットである。このうちいま上場しているSPACがいるのはキャピタルマーケットで最低資本要件があるが、グローバルマーケットにはこれがない。従ってグローバルマーケットに鞍替えすれば上場は維持できるのだが、グローバルマーケットにはその代わりに最低株主数がキャピタルマーケットの400人より100人多く、500名の株主がいなければならないことになっている。つまりSPACは新たに100名の投資家を探さなければならないということになる。いろいろいわくつきになってしまったSPACに投資してくれる人を探すのも大変だ。日本でもSPAC上場を可能にする研究会が組織されているが、こうしたアメリカの事例を研究してより利便性の高い制度ができれば日本市場も活気づくだろう。(The SEC Is Cracking Down On SPAC Accounting Yet Again)(SPAC導入で研究会 来年前半に提言 東証(時事通信) - Yahoo!ニュース