ユーラシア経済ニュース

日本であまり報道されない、ユーラシア大陸の経済ニュース記事を翻訳して紹介しています。

マスコミが報じないロシアのウクライナ攻撃の裏事情

※今回は情報も錯綜しており、状況が非常に流動的で進行中でもあります。私が制作する動画や記事はすべてそうですが、今回はとくに、ロシアや中国の行動を是認したり、その主張を正しいとするものではなく、あくまでもロシアや中国の主張の背景にある論理を掴むためのものです。孫子に「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」とあるとおり、相手がどういう論理のもとに行動しているのかを知ることがまずは重要だと思います。その論理を解説したからといって、それに完全に賛同したり称賛したりしているわけではないということをご了承の上で、続きをご覧いただければと思います。

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24日の朝、プーチンはドンバスでの「特別な作戦」を宣言した。ロシア側はウクライナにおける軍事施設のみを対象とし、ウクライナを「非軍事化」並びに「非ナチス化」するために攻撃を行い、ウクライナの都市や民間施設は攻撃しないと宣言。ロシアはウクライナ全土を占領する計画はなく、キエフ政府によって8年間大量殺戮に晒されてきた人々を保護することが最終的な目標だと述べた。中国外務省報道官は、ロシア軍の行動についてウクライナへの「侵攻」ではない、という見解を示した。また中国外交部の王毅外相は24日、ロシアのラブロフ外相と電話会談し「ロシアが安全保障問題を憂慮することにもれっきとした理由があるのがわかる」と強調した。

 

ロシアがウクライナに対して攻撃した場合に懸念されたのが、米軍やNATOによる反撃と、それに伴う世界大戦の勃発と言われていた。ところが蓋を開けてみると、2月24日NATO事務局長のイェンス・ストルテンベルグは「ウクライナ国内にはNATOの戦闘部隊はまったくいない。我々はNATOの部隊をウクライナに配備する計画や意図がない」と述べた。ロイターは「ウクライナNATO加盟国ではない」と付け加えている。ホワイトハウスも23日、サキ報道官は「バイデン大統領が、ウクライナ領内でロシアと戦うために米軍を派遣するようなシナリオは存在しない」と明言。

 

モスクワ時間の24日23時42分、TASSは74のウクライナの軍事施設がロシアの攻撃によって機能不全に陥った、と報じた。アメリカはさらなる制裁として、ロシアの銀行の在米資産の凍結と取引停止、満期が14日を超えるロシア債券の取引、ロシア産の宇宙産業機器の輸入停止などを発表した。NATO has no plans to send troops into Ukraine, Stoltenberg says)(中国、ウクライナ情勢で自制呼び掛け 「侵攻」ではないと主張)(米国、ウクライナへの軍派遣ない=ホワイトハウス

 

さて冒頭でも述べたとおり、ロシア側はウクライナにおける軍事施設のみを対象とし、ウクライナを「非軍事化」並びに「非ナチス化」するために攻撃を行い、ウクライナの都市や民間施設は攻撃しないと宣言。ロシアはウクライナ全土を占領する計画はなく、キエフ政府によって8年間大量殺戮に晒されてきた人々を保護することが最終的な目標だと述べた。これを理解するためには、次の二つの要素を把握しなければならない。ウクライナのおけるネオナチ問題と、国際人道法についてだ。

 

ウクライナにおけるネオナチ問題とは何か。ウクライナは元々親ロシアのヤヌコビッチが政権の座に着いていたが、2014年のマイダン革命で米国よりの政権となった。革命の混乱に乗じてウクライナから離脱したいドネツク・ルガンスク地域の人々は住民投票を行ってその意思を表示したが、当時のモスクワも西側もこれを拒否した。その混乱の中でウクライナには義勇兵・ボランティア兵士として国内外の白人右翼(ネオナチ)が入り込み、革命後もロシア人の民間人を襲撃・虐殺してきた。革命によって樹立された政府のそのような勢力のなかでも代表的な集団がアゾフ大隊だ。ウクライナのネオナチ問題はロシア側の一方的な主張ではなく、ロイターの記事にもきちんと記載されている。またアムネスティ・インターナショナルも、2014年にルガンスク北部地域におけるボランティア大隊による虐待に対する調査をウクライナ政府に求める声明を出している。プーチンの今回の軍事作戦の目標は、ウクライナの民間人を虐殺しているこうしたネオナチ勢力を一掃することであり、それを「非ナチス化」と呼んでいる。(Commentary: Ukraine’s neo-Nazi problemRussia has 'no plans’ to take over Ukraine – Putin)(Ukraine: Abuses and war crimes by the Aidar Volunteer Battalion in the north Luhansk region)(How Ukraine’s ‘Revolution of Dignity’ led to war, poverty and the rise of the far right

 

さらにロシアが「非軍事化」と、都市や民間施設を攻撃しないとわざわざ宣言しているのは、それが国際法のルールであるからだ。ジュネーブ条約1864年に署名され、その後何度か議定書が追加されながら変遷している戦争時の捕虜の扱いなどについて定めた条約である。ジュネーブ条約は48条で軍事目標主義、つまり軍事行動は軍事目標のみを対象とする原則を掲げ、文民に対する攻撃の禁止、無差別攻撃の禁止、民用物の攻撃の禁止、戦闘中にない者に対する攻撃の禁止、文民たる住民の生存に不可欠な物の保護などを定めている。戦争や戦闘行為の大原則として、国際法は戦時において戦闘員と非戦闘員を区別し、後者を攻撃目標とすることを禁止している(戦闘員と非戦闘員の区別原則)。ウクライナのネオナチ・アゾフ大隊は2014年11月にウクライナ国境警備隊に組み込まれ、ドネツク・ルガンスクの非戦闘員のロシア人たちを殺害してきた。(ジュネーヴ諸条約及び追加議定書の主な内容)(NBC’s Richard Engel promotes Ukraine’s neo-Nazi Azov Battalion

 

このような背景を踏まえないと、いまのウクライナで起こっていることの意味というのはまったくわからない。ウクライナ攻撃を機にNYダウは一時800ドル安となり、日経平均も478円79銭安と下落。原油は100ドルを超えた。マスコミはネオナチや国際法のような背景をまったく報道せずに、株価の下落をウクライナ問題のせいにしているがそれも誤りだ。2014年3月18日のクリミア共和国併合の際には株価も長期金利もまったく動いていなかったことからそのように主張している記事があった。

 

下げ相場は、リーマンショックのときにも長い時間をかけて段階的に下げていく。この記事では株価下落・長期金利高止まり・商品価格高騰という三条件が揃っていた時期はアメリカの1970年代であったことから、現在の商品価格高騰の原因がインフレと金融引き締め(FRBのテーパリング)であるとしている。おそらくそうだろう。ウクライナとロシアで世界生産量の3割を占める小麦などはさらに価格が上がっていく。(世界同時株安の原因はロシアとウクライナではない