ユーラシア経済ニュース

日本であまり報道されない、ユーラシア大陸の経済ニュース記事を翻訳して紹介しています。

世界中が反ロシアなワケがない

ロシアの国営ニュースメディア・RTのウェブサイトが頻繁にダウンしており、サイトに直接アクセスできない状態が続いている。スプートニクやTASS、コメルサントやロシア企業の公式サイトも同様だ。URLをクリックしてもサイトの記事そのものが閲覧できないので、テレグラム(Telegram)のRTチャンネルやスプートニクチャンネルから取得した情報を元に記事を書く。これらの投稿にもリンクを貼ることはできるのだが、テレグラムを入れていない場合にはアクセスできない。記事の執筆中にもアクセスできたリンクについては記事に掲載するが、それ以外はテレグラム情報ということで理解して頂ければ幸いである。(RT News/Telegram)(RT Russian/Telegram

 

このようにロシアに対する制裁・攻撃が激烈を極めている。SWIFTからの排除などの経済制裁に関してはほとんど実効性がなく、原油高やゴールド価格の上昇を通じてロシアを強くするだけだが、こうしたインターネット上の情報の遮断は私のような情報収集者にとっても迷惑な話だ。Twitterでもスプートニクなどの投稿には警告が表示され、いいねやリツイートをしようとするとさらに警告が表示される。EU域内ではRTのYouTubeチャンネルも閲覧できない状態になっているらしい(日本からはいまのところまだアクセスできる)。スプートニクEU圏で禁止され、スペイン、フランス、ドイツ、ギリシアで放送が停止された。グーグルのサービスもウクライナ国内でダウンしているという情報がある。GmailYouTubeがアクセスできない状態になっているようだ。

 

スプートニクはTelegramに、EU域内に住んでいる人に対してVPNを使ってサイトにアクセスする方法を解説した画像を投稿しているほか、RTはオルタナティブの動画投稿サイトであるRumbleにチャンネル開設を発表した。これはロイターも報道している。だがふつうに暮らしてネットのニュースを見ているくらいの人は、わざわざVPNでロシアの国営メディアにアクセスしたり、テレグラムをインストールしてRTのチャンネルに登録したりしないだろう。一方的に西側の情報で、ロシアが悪の帝国にされ、プーチンがバイデン以上の精神異常者に仕立て上げられていく。ひどい情報統制で、なぜこれに左派は異を唱えないのだろうか。統制が酷くなればなるほど、偽善と欺瞞がよりあからさまになっていく。(Russian news channel RT to broadcast on Rumble after Big Tech curbs)(RT_Rumble )

 

さて以上のような形でロシアに関して西側以外の見解や情報を集めることが難しい情勢になりつつある。日本のメディアでは世界中が反ロシアになっているかのような報道ぶりだが、もちろんそのようなことはなく、世界にはさまざまな立場の国や地域がある。

 

ブラジルのボルソナロ大統領は、ロシアから輸入する肥料が同国の農業生産に必要不可欠であるということに触れながらウクライナ問題に関しては中立の立場を取ると宣言した。中国は、ドネツク民共和国・ルガンスク人民共和国の独立については支持していない。これは台湾の対中独立派を勢いづかせることを防ぐためだが、国際的な制裁に関しては反対し、ガスの取引は継続している。ロシアと中国の取引は、ロシアが原油天然ガスを送り、中国が金を輸出するという形の実質的な物々交換に近くなっている。またメキシコのロペス・オブラドール大統領も3月1日に対ロシア制裁に加わらないことを表明し、Twitterでロシア国営メディアのツイートに警告が表示されていることについても「検閲だ」と述べた。これは日経も報じている(笑)。アルゼンチンもウクライナでの平和を呼びかけているが、一方的な制裁が平和につながるとは思えないと述べた。南米はアメリカの欺瞞をよく知っているからこうなるに決まってるだろう。(メキシコ大統領「ロシアに制裁科さない」 野党は批判

 

インドはロシアとの関係が深く、インド軍の戦闘機の半数以上、戦車のほぼ全てがロシアから輸入したものだ。中国との対抗上、ロシアから武器を購入するルートが絶たれることはインドにとって非常にまずい。さらにパキスタンとの国境紛争もあり、パキスタンはCPEC(中国パキスタン経済回廊)で協力関係を深めるなど中国と近い国だ。パキスタンのカラチ港などは、中国にとって米国の勢力圏である東側の沿岸部やインドを迂回して港湾に出るための重要な拠点で、CPECは2020年に620億ドル規模に拡大し一帯一路構想の重要な構成要素と看做されている。ビル・ゲイツは2月17日にパキスタンを訪問し、イムラン・カーン首相と会談、「向こう数年のうちにポリオを根絶できるだろう」と語ったという。ロイターが報じている。どうやらパキスタンはグローバリスト側の国になっているらしい。(Bill Gates visits Pakistan, says polio eradication possible in a few years)(India Avoids Condemning Putin to Get Weapons for China Fight

 

トランプ大統領は「私が執務していれば、この血に塗れたウクライナの状況は決して発生していなかっただろう!」と自身のテレグラムチャンネルに投稿。2月23日の投稿では、「バイデン政権でオイル価格は高騰し、ロシアはずっと金持ちになった。トランプ政権のもとではアメリカは独立したエネルギー供給を実現しており、オイル価格もずっと安かった」と述べた。(Donald J.Trump/Telegram

 

主要SNSでの統制が厳しくなればなるほど、プラットフォームは自滅的に衰退していくだろう。自分でさまざまな情報源に当たって検討・検証していく姿勢が必要不可欠だ。

プーチンと欧米が真に協議していること

※元記事はFantiaに投稿したものです。

fantia.jp

 

ロシアでのウクライナ戦争が6日目に突入しようとしている。西側のマスコミは相変わらずプーチン・ロシアを悪の帝国主義の権化として非難し続けているが、軍も派遣しないプロレスに騙される前に備えるべきは経済危機だ。この経済危機はウクライナ攻撃に始まったものではないが、ロシアの攻撃とそれに対するアメリカ・EUの自滅的な制裁によってより酷いものになっている。具体的に述べればサプライチェーン危機・物流の滞留、肥料価格・食糧価格の高騰を通じた食糧危機だ。それに加えてサイバー攻撃が大量に行われている。今回はそうした状況について概観したのち、こうした動乱の水面下でプーチンと欧米・NATOが本当に協議していることは何なのかについて考察してみる。

 

サプライチェーンの危機_金属、エネルギーすべて高騰へ

ロシアはニッケルの供給量世界3位であり、パラジウムでは世界シェアの4割を占めている。米国の半導体用ネオンの9割もウクライナから輸入される。ウクライナはネオン以外にも、18族の希ガス元素(アルゴン、クリプトン、キセノン)の主要産出国として知られている。ニッケルは充電池に欠かせない金属で、ニッケル協会によれば世界のニッケル使用量は毎年4%成長、ニッケルを含有するステンレス鋼の使用量は毎年6%成長しているという。パラジウムは自身の体積の935倍の水素を内部に吸着させることができる。この性質を利用して混合ガスから水素のみを選り分けて高純度水素を作ることができるようになるため、半導体やLED、燃料電池向けの高純度水素を作るのに欠かせない金属だ。半導体生産の原材料や、レアメタルについてアメリカはロシア・ウクライナに大きく依存しており、制裁はこういった資源の価格を高騰させたり調達を困難にすることで自らのクビを占めるだけになる。アメリカやEUが被害を被るだけならまだしも、日本の一般消費者や企業にも大きく影響する。すでに半導体不足で洗濯機やカメラといった商品の店頭在庫が消え、入荷待ちとなっている。(ウクライナ危機でサプライチェーン混乱、現地工場の操業停止相次ぐ)(パラジウム膜による水素透過のメカニズム

 

こうした工業製品の原材料だけでなく、ロシア・ウクライナは小麦・大麦・トウモロコシの主要輸出国であり、ロシアは世界の小麦輸出量の約2割を占めるトップ輸出国で、ウクライナはトウモロコシの輸出量のシェア16%を占める。食糧備蓄のための乾パンや長期保存パンも高騰するかもしれないから、今のうちに買っておいたほうがいいだろう。(ウクライナ危機、穀物相場 高騰の兆し 日本国内

 

そもそもモノが不足したり輸出入が行われなくなっている上に、物流も不安定だ。アメリカでは港湾や小売店で人手が大量に不足している。カナダのトラック運転手に対するワクチン義務化に反対する抗議運動であるフリーダム・コンボイアメリカにも波及し、こちらではピープルズコンボイと呼ばれている。公式サイトからの情報によれば、ピープルズコンボイは2月23日にカリフォルニア州アデラントを出発し、3月5日にワシントンD.C.に到着するスケジュールだという。この運動をどう見るかについては意見が分かれるところだろうが、物流に影響が出ることは間違いないだろう。(American Truckers are launching The People’s Convoy, a peaceful and unified transcontinental movement, on February 23 from Adelanto Stadium in Southern California(PDF))('People's Convoy' Releases Official Route — Will 'Freedom' Truckers Pass Through Your City?

 

サイバー攻撃

ロシア・ウクライナサイバー攻撃が相次いでおり、ロシアのウクライナ攻撃の前後にはウクライナ国防省や銀行のサイトがアクセス不可の状態になっていたほか、ハッカー集団「アノニマス」は2月25日にロシアに対して「サイバー戦争」の宣戦布告を行った。彼らはロシアの主要なニュースサイトをダウンさせ、「戦争を止めろ」というメッセージを表示させている。TASSやコメルサント、イズベスチヤ、RTといったサイトで攻撃が確認されている。私も頻繁に見ているが、確かにここ数日つながりにくいケースが増えており、この記事を書いている最中にもコメルサントやガスプロムのウェブサイトにアクセスできない状態になっている。私の仕事にも差し障るので本当に迷惑な話だ。TASSやRTはEUの制裁の対象としてEU圏からのアクセスも遮断されている。トヨタも2月28日、取引先の部品メーカーである小島プレス工業サイバー攻撃を受けたため国内にある全14工場の28ラインを1日停止させると発表した。(トヨタ、取引先にサイバー攻撃か-1日に国内全工場を稼働停止へ)(Websites of major Russian media taken down by hackers

 

ドイツはさらに自滅的なことをやっている。ショルツ首相は27日、1,000億ユーロ(約13兆円)を軍隊を近代化するために投じ、2024年までに対GDP比で少なくとも2%を軍事費に費やすと述べた。ドイツはすでに長年の「紛争地域に武器を送らない」という方針を曲げて、ウクライナに1,000台の対戦車兵器・パンツァーファウスト3と500台のスティンガーミサイルを送ることを決定していた。さらに2035年までにクリーンエネルギーで100%のエネルギーをまかなうことを目指しているとロイターが報じている。冷静に考えればノルドストリーム2の稼働承認を進め、ロシアから安価なガスを買って欧州に平和をもたらせばよさそうなものだが、そうはいかない事情がショルツにはあるらしい。(Germany to hike defense spending, buy new weapons)(Germany aims to get 100% of energy from renewable sources by 2035)(Weapons made in German-Israeli factory being sent to Ukraine

 

パンツァーファウストはもともとナチスドイツで開発された兵器で、日本語では「対戦車投擲弾発射無反動砲」などと呼ばれる。「対戦車」は文字通り歩兵が戦車を攻撃するためのものであることを意味し、「投擲弾」は自力で推進力を持たない弾薬を発射することを意味する。弾薬自身は推進力を持たないので、後方に爆風を飛ばすことで作用・反作用の法則で使用者に発射時の反動がかかることを防ぐ「無反動砲」だ。たまに戦争映画で、ゲリラがうっかりこれの背後に入って吹き飛ばされるシーンが描かれている。日本でロケットランチャーとして一般的に言われているのは、パンツァーファウストをもとにソ連が開発したRPG-7で、これは一人称視点のシューティングゲームなどでよく登場する。(パンツァーファウスト)(FIM-92 Stinger

 

パンツァーファウストもスティンガーも市街地で民間人に紛れたゲリラがビル陰などから戦車や戦闘ヘリを攻撃するための武器だ。ロシア軍は国際法に則り、ウクライナの民間人や民用物を攻撃しないようにしながら戦争を進めているが、ウクライナにこれらの武器が渡り、主要都市でゲリラ的にロシア軍に対する攻撃が始まると、民間人も巻き込まれ非戦闘員の死傷者が出て、双方が責任を押しつけ合う形になり泥沼化する。非戦闘区域においてスティンガーの攻撃でヘリが落ちたりしたら最悪だ。このあたりはリドリー・スコットの映画「ブラック・ホーク・ダウン」を観るとイメージしやすいだろう。(ブラック・ホーク・ダウン

 

しかし実際にはウクライナの制空権はロシアが握っており、武器を運ぶには陸路しかない。EUは狂ったように経済制裁を打ち出しているが、実際にはブラフで、本質的な意味合いのないものばかりだ。水面下ではおそらくこの件に関する駆け引きが行われている。ポーランドなどの周辺国はもしNATO側の味方をして武器の運搬に協力したら、あとあと確実にロシアに破滅させられる。プーチンは核にも言及しているが、真の意図は欧州を脅すというよりは周辺国の牽制だろう。

マスコミが報じないロシアのウクライナ攻撃の裏事情

※今回は情報も錯綜しており、状況が非常に流動的で進行中でもあります。私が制作する動画や記事はすべてそうですが、今回はとくに、ロシアや中国の行動を是認したり、その主張を正しいとするものではなく、あくまでもロシアや中国の主張の背景にある論理を掴むためのものです。孫子に「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」とあるとおり、相手がどういう論理のもとに行動しているのかを知ることがまずは重要だと思います。その論理を解説したからといって、それに完全に賛同したり称賛したりしているわけではないということをご了承の上で、続きをご覧いただければと思います。

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24日の朝、プーチンはドンバスでの「特別な作戦」を宣言した。ロシア側はウクライナにおける軍事施設のみを対象とし、ウクライナを「非軍事化」並びに「非ナチス化」するために攻撃を行い、ウクライナの都市や民間施設は攻撃しないと宣言。ロシアはウクライナ全土を占領する計画はなく、キエフ政府によって8年間大量殺戮に晒されてきた人々を保護することが最終的な目標だと述べた。中国外務省報道官は、ロシア軍の行動についてウクライナへの「侵攻」ではない、という見解を示した。また中国外交部の王毅外相は24日、ロシアのラブロフ外相と電話会談し「ロシアが安全保障問題を憂慮することにもれっきとした理由があるのがわかる」と強調した。

 

ロシアがウクライナに対して攻撃した場合に懸念されたのが、米軍やNATOによる反撃と、それに伴う世界大戦の勃発と言われていた。ところが蓋を開けてみると、2月24日NATO事務局長のイェンス・ストルテンベルグは「ウクライナ国内にはNATOの戦闘部隊はまったくいない。我々はNATOの部隊をウクライナに配備する計画や意図がない」と述べた。ロイターは「ウクライナNATO加盟国ではない」と付け加えている。ホワイトハウスも23日、サキ報道官は「バイデン大統領が、ウクライナ領内でロシアと戦うために米軍を派遣するようなシナリオは存在しない」と明言。

 

モスクワ時間の24日23時42分、TASSは74のウクライナの軍事施設がロシアの攻撃によって機能不全に陥った、と報じた。アメリカはさらなる制裁として、ロシアの銀行の在米資産の凍結と取引停止、満期が14日を超えるロシア債券の取引、ロシア産の宇宙産業機器の輸入停止などを発表した。NATO has no plans to send troops into Ukraine, Stoltenberg says)(中国、ウクライナ情勢で自制呼び掛け 「侵攻」ではないと主張)(米国、ウクライナへの軍派遣ない=ホワイトハウス

 

さて冒頭でも述べたとおり、ロシア側はウクライナにおける軍事施設のみを対象とし、ウクライナを「非軍事化」並びに「非ナチス化」するために攻撃を行い、ウクライナの都市や民間施設は攻撃しないと宣言。ロシアはウクライナ全土を占領する計画はなく、キエフ政府によって8年間大量殺戮に晒されてきた人々を保護することが最終的な目標だと述べた。これを理解するためには、次の二つの要素を把握しなければならない。ウクライナのおけるネオナチ問題と、国際人道法についてだ。

 

ウクライナにおけるネオナチ問題とは何か。ウクライナは元々親ロシアのヤヌコビッチが政権の座に着いていたが、2014年のマイダン革命で米国よりの政権となった。革命の混乱に乗じてウクライナから離脱したいドネツク・ルガンスク地域の人々は住民投票を行ってその意思を表示したが、当時のモスクワも西側もこれを拒否した。その混乱の中でウクライナには義勇兵・ボランティア兵士として国内外の白人右翼(ネオナチ)が入り込み、革命後もロシア人の民間人を襲撃・虐殺してきた。革命によって樹立された政府のそのような勢力のなかでも代表的な集団がアゾフ大隊だ。ウクライナのネオナチ問題はロシア側の一方的な主張ではなく、ロイターの記事にもきちんと記載されている。またアムネスティ・インターナショナルも、2014年にルガンスク北部地域におけるボランティア大隊による虐待に対する調査をウクライナ政府に求める声明を出している。プーチンの今回の軍事作戦の目標は、ウクライナの民間人を虐殺しているこうしたネオナチ勢力を一掃することであり、それを「非ナチス化」と呼んでいる。(Commentary: Ukraine’s neo-Nazi problemRussia has 'no plans’ to take over Ukraine – Putin)(Ukraine: Abuses and war crimes by the Aidar Volunteer Battalion in the north Luhansk region)(How Ukraine’s ‘Revolution of Dignity’ led to war, poverty and the rise of the far right

 

さらにロシアが「非軍事化」と、都市や民間施設を攻撃しないとわざわざ宣言しているのは、それが国際法のルールであるからだ。ジュネーブ条約1864年に署名され、その後何度か議定書が追加されながら変遷している戦争時の捕虜の扱いなどについて定めた条約である。ジュネーブ条約は48条で軍事目標主義、つまり軍事行動は軍事目標のみを対象とする原則を掲げ、文民に対する攻撃の禁止、無差別攻撃の禁止、民用物の攻撃の禁止、戦闘中にない者に対する攻撃の禁止、文民たる住民の生存に不可欠な物の保護などを定めている。戦争や戦闘行為の大原則として、国際法は戦時において戦闘員と非戦闘員を区別し、後者を攻撃目標とすることを禁止している(戦闘員と非戦闘員の区別原則)。ウクライナのネオナチ・アゾフ大隊は2014年11月にウクライナ国境警備隊に組み込まれ、ドネツク・ルガンスクの非戦闘員のロシア人たちを殺害してきた。(ジュネーヴ諸条約及び追加議定書の主な内容)(NBC’s Richard Engel promotes Ukraine’s neo-Nazi Azov Battalion

 

このような背景を踏まえないと、いまのウクライナで起こっていることの意味というのはまったくわからない。ウクライナ攻撃を機にNYダウは一時800ドル安となり、日経平均も478円79銭安と下落。原油は100ドルを超えた。マスコミはネオナチや国際法のような背景をまったく報道せずに、株価の下落をウクライナ問題のせいにしているがそれも誤りだ。2014年3月18日のクリミア共和国併合の際には株価も長期金利もまったく動いていなかったことからそのように主張している記事があった。

 

下げ相場は、リーマンショックのときにも長い時間をかけて段階的に下げていく。この記事では株価下落・長期金利高止まり・商品価格高騰という三条件が揃っていた時期はアメリカの1970年代であったことから、現在の商品価格高騰の原因がインフレと金融引き締め(FRBのテーパリング)であるとしている。おそらくそうだろう。ウクライナとロシアで世界生産量の3割を占める小麦などはさらに価格が上がっていく。(世界同時株安の原因はロシアとウクライナではない

プーチンの10年越し意趣返しとしてのドンバス

ガス価格が急騰している。1,000立方メートル当たりの価格はヨーロッパで960ドル以上に上昇した。ドイツの電気料金を指数化したGSCI German Powerを見ると、2020年ごろには100程度で推移していたものが直近では487となっている。ロシアがドネツク民共和国とルガンスク人民共和国を国家承認してまもなく、ドイツがノルドストリーム2の稼働承認手続を止めると発表した。だがドイツの経済大臣ロベルト・ハーボックは、「認証プロセスの停止は必ずしも交渉のテーブルから離れたことを意味するわけではない」とやや逃げのコメントもしている。もうしばらくしたら「やっぱり認証プロセスを開始する」となるだろう。インフレはどこの国でも民衆の財布にダイレクトに響き、口先で何を言っても解決しない問題だ。実体経済の破壊が人々に政治やマスコミのウソや詭弁を気づかせる契機になる。(Gas prices in Europe surpass $960 per 1,000 cubic meters)(Germany says it can do without Russian gas, but that won’t be easy

 

ところでドネツク民共和国とルガンスク人民共和国の独立宣言とプーチンの国家承認を西側メディアや政治家は「国際法違反だ」といっているが、これは明確に誤りだ。2008年2月にコソボセルビアから独立した際に、国際司法裁判所はその一方的な独立宣言を「国際法に違反しない」と判示した。このときにアメリカはコソボの独立を支援し「新たに独立した地位からの撤退は考えていない」と述べたのが当時の米国副大統領ジョー・バイデンだ。2009年4月19日にアメリカから国連に送付された声明によれば、「独立宣言はしばしば国内法を破るが、これは宣言が国際法違反となることを意味しない」とあり、それに対する国連の返答は「一般的な国際法は独立宣言に対して如何なる禁止もしていない」というものだった。プーチンが2014年にクリミアで行った共和国の独立から住民投票ロシア連邦併合の流れは、こうした判決を逆手に取ったものだ。今回のドネツクとルガンスクも独立とその国家承認というフェーズに来たので、やがて住民投票からロシアへの併合という同じ流れを辿ることだろう。一連の動きはプーチンの10年越しの意趣返しだ。(Kosovo's independence is legal, UN court rules)(Putin Uses Rule of Law to Win Ukraine

 

西側も反撃しており、EU、イギリス、アメリカがロシアに対する制裁を発表した。イギリスの制裁の内容はロシア人3名(ゲンナジー・ティムチェンコ、ボリス・ローテンバーグ、イゴール・ローテンバーグ)に対する渡航禁止及び資産の凍結、5つのロシアの銀行(バンクロシア、黒海銀行、ジェンバンク、ISバンク、PSB)の在英資産の凍結である。アメリカでもバイデン大統領は「これはロシアのウクライナ侵攻の始まりだ」と述べ、ロシアの金融機関とオリガルヒを対象とした経済制裁を発表した。ロシア国営銀行のVEBと、プロムスビャズバンク(PSB)に対し、在米資産の凍結、アレクサンドル・ボルトニコフとその息子デニス・ボルトニコフ、セルゲイ・キリエンコとその息子ウラジーミル・キリエンコ、そしてピョートル・フラドコフが対象となる。フラドコフはPSBの会長兼CEOであり、アレクサンドル・ボルトニコフはFSBロシア連邦保安庁)の責任者だ。セルゲイ・キリエンコは1998年にロシア首相を務めていた。PSBはメドベージェフが取締役を務める銀行でもある。(UK hits Russian oligarchs and banks with targeted sanctions: Foreign Secretary's statement)(The social media CEO, the bankers and the banks: Biden sanctions two financial institutions and three powerful businessmen whose fathers are key Kremlin insiders

 

そんな中、ウクライナで大規模なDDos攻撃が行われ、政府機関のウェブサイトや銀行が被害に遭っているようだ。ウクライナでは少し前からサイバー攻撃が続いている。

ウクライナでは非常事態宣言も出されたが、国家安全保障防衛会議のオレクセイ・ダニロフ書記はわざわざドネツク民共和国とルガンスク人民共和国は2014年から非常事態宣言が導入されているから対象範囲ではないと言及した。宣言の内容は、自家用車や船舶などによる移動の制限、外国人の国境付近の滞在への制限、ラジオ局の使用制限、ウクライナ国境警備隊に属する物体の動画・画像撮影の禁止が含まれ、大規模な集会やストライキの禁止も含まれる可能性があり、必要に応じて夜間外出の禁止も含まれうる。2月24日の深夜から開始され、30日間にわたり発令される見込みとなっている。(Ukraine State Of Emergency Bans 'Mass Gatherings', Could Impose Curfews

 

毎回書くが、いずれにしてもインフレや食糧危機が訪れることはほぼ確実だ。インフレはすでに相当酷いレベルになってきている。アメリカでもフリーダムコンボイが始まり、徐々に物流が滞っていく。すでにアメリカのスーパーでは棚から商品がなくなって、数少ない商品にも盗難防止のためにカギがつけられるという状態になっている。また情報規制も厳しくなっていくことが予想される。すでにYouTubeでは、コロナやワクチン関連の話題は完全に排除されてしまっている。いつ動画の規制やBANが別のテーマに課せられるかわからないので、情報収集・発信のためにもオルタナティブ系のSNS、動画サイトに徐々に移行していく。YouTubeはおすすめ機能で動画を拡散するのには向いているのでYouTubeの動画投稿も継続するが、一ヶ月くらいかけてmediable、Gettr、Fantiaに切り替えていく。(https://mediable.jp/channels/8f3369ff-8846-4b46-9aca-fd64bb5fa424)(https://gettr.com/user/ks_in_gettr)(https://fantia.jp/fanclubs/314556

破滅が近づく世界経済

 プーチン大統領は2月21日、ウクライナ東部の分離・独立派地域のドンバス、ドネツク民共和国とルガンスク人民共和国を国家承認した。この決定が発表される前後にはドンバスで大変緊張が高まっており、たとえば2台のウクライナ軍の装甲車両がロシア領に侵入しようとしたため破壊され「侵入者」5名が死亡したり、ウクライナ側の砲撃によって死傷者が出たりしていた。こうした中で、両人民共和国を国家承認する法案がロシアの下院を通過し、ドネツク民共和国のデニス・プシーリンとルガンスク人民共和国のレオニード・パセクニクがともにプーチン大統領に署名を要請した。最終的にプーチンの裁量一つに委ねられる形となり、2月21日中に国家承認する旨が発表された。(Russia reports 2 armored Ukrainian vehicles attempting infiltration destroyed)(Putin Recognizes Independence of Pro-Russia Separatists in Ukraine

 

 国家承認後、プーチンはロシア軍にドネツクとルガンスクの「平和を維持」するように命じた。欧州連合NATOは当然これを非難し、ロシアに対する制裁を発表した。原油天然ガスは、ロシアがウクライナに軍隊を派遣する決定を受けて8%急騰した。原油価格は100ドルを超えそうな勢いになっているが、西側にとって大変な事態でもロシアにとっては利益になる。資源高もあってロシアを悪者にする報道が過熱しているが、そうした報道とは裏腹に、ドネツク民共和国とルガンスク人民共和国ではプーチンが国家承認を発表したあとに街で花火を打ち上げるなどお祭りムードになっている。ブルームバーグは「ロシア軍がウクライナ東部に軍隊を派遣しているが、それはヨーロッパにガスを送るパイプラインとは離れているから大丈夫だ」というような記事もこっそり出しており、「危機は煽るけどガスは来るから心配するな」という、よくわからない報道になっている。(WATCH Donetsk and Lugansk celebrate)(Russian Forces Will Be Far Away From Key Oil Pipeline

 

 ウクライナのゼレンスキー大統領はウクライナ・ロシア・フランス・ドイツによる首脳会談を要求したり、「ウクライナはロシアとの関係を断ち切る可能性がある」などと強気の発言をしているが、あんまり誰も気にしていない感じがする。ウクライナ問題はロシア・ウクライナ間の問題や、ロシア・NATO間の問題ですらなく、ドイツとアメリカの問題だとアルジャジーラは指摘している。ノルドストリーム2はウクライナなどの陸地を経由せずに、バルト海を通ってロシアからドイツにガスを運ぶパイプラインで、これが稼働すればドイツを始めEUとロシアの関係が安定し、アメリカが追い出されることになる。ドイツのオラフ・ショルツ首相はアメリカに見放されないようにノルドストリーム2の稼働はまだだと述べ、メドベージェフは「それなら原油に2,000ユーロ払えばいいじゃないか」とフランス王妃みたいなことを言っている。ドイツの生産者物価指数は2021年1月に比べると25%以上上昇しており、本格的に物価が上がっているともうじき市民が感じるようになってくる。ドイツでもアメリカのようにステルス値上げ(シュリンクフレーション)が起こっていることが人々にバレはじめると、いよいよノルドストリーム2を稼働させざるをえない状況になってくるだろう。(EU will soon pay double for gas – Medvedev)(Nord Stream 2: Why Russia’s pipeline to Europe divides the West

 

ロシアが世界の商品市場で占めるシェアは大変大きく、JPモルガンのデータによればパラジウム45.6%、プラチナ15.1%、金9.2%、原油8.4%、天然ガス6.2%、ニッケル5.3%、小麦5.0%、アルミニウム4.2%、石炭3.5%、銅3.3%、銀2.6%となっている。バイデンは経済制裁をロシアに加えようとしているが、ロシアは1日1,000万バレルの原油を生産し、金準備は2,300トンに及ぶため制裁によって原油高や金価格の上昇が引き起こされるとむしろロシアの利益になる。ロシアは世界の仮想通貨時価総額の12%を保有しているとも伝えられており、金融市場のマネーがどんな商品や仮想通貨に逃避してもロシアの利益が増す構造になっている。(Russia's share of global commodities market.../Twitter

 

2月21日の午後、ブルキナファソの金採掘現場で大規模な爆発が起こり、少なくとも59人が死亡し、爆風で100名以上が負傷したという。ブルキナファソはアフリカで5番目の金生産国で、2017年に46,200kg、2018年に36,000kgの金を生産している。記事を読む限りだと、これは硝酸アンモニウムの肥料工場における爆発とか、ルネサスエレクトロニクスの火災とかとは異なって純粋に技術的なミスによる爆発のように見える。金生産が滞って金価格が上がって得するのはロシアだし、ロシアがわざわざブルキナファソを妨害しようとすることも考えづらいが、RTでは報道されていたので紹介した。ちなみに世界最大の金生産国は中国で420トン、二位がオーストラリアで330トン、三位がロシアで310トンとなっている。(At least 59 killed in mining blast – media

 

 いずれにしても原油高や資源高を通じて日本の生活費高騰、インフレも酷くなっていく。アメリカがここまでロシアを敵視し危機を煽るのはインフレが深刻だからだ。3月の半ばくらいが、FRBがインフレに対して何も対策を打つことができず無力であることが暴露され、いよいよ最終的な崩壊が始まる時期だと噂されている。カナダの取り付け騒ぎアメリカにも波及しそうな勢いで、実際アメリカでもフリーダムコンボイが3月上旬から始動し、ワシントンに向けて出発することが報告されている。カナダのように、フリーダムコンボイが銀行口座の凍結や取り付け騒ぎの序章となる可能性は高い。残された時間は少ないが、取れる対策を取っていくしかないだろう。(US ‘freedom convoy’ inspired by Canada bids to organize for Washington trip

比較言語学でよろしかったでしょうか

  先日とある喫茶店で読書していると、レジの店員が「ご注文はアイスコーヒーでよろしかったでしょうか」と言っているのを耳にした。「よろしかったでしょうか」という言い方はいわゆるバイト言葉であり、正確な敬語ではない。あるタイプのマナー講師などを憤激させる類いの物言いである。様々なバイトのマニュアルにも当然使わないようにという指導が入っているはずなのだが、それでも一向に死滅する気配がない。これだけ広く蔓延る言い方であるからには、なにかしら自然にそうさせてしまう力が働いているはずである。そのように考えて辿りついたのが、「これは日本語という言語の制約の下での婉曲表現なのではないか」という仮説である。

 

 「よろしかったでしょうか」と検索してみると、「現在のことを確認しているのに過去形だからよくない」という説明がなされている。だが、たとえば英語では表現を婉曲にするために過去形が用いられる。たとえば「電話をください」と言うときに、"Call me."では当然不躾で、"Could you call me?"などのように言う。一般に、"Will you~"や"Can you~"よりも、過去形を用いたほうが丁寧さが増すとされる。

 

 また、反実仮想や非現実的な仮定のもとに話をするときも過去形を使う。「もし私が君の立場なら〜」を"If I were you..."というようなときの仮定法には過去形を用いる。また挨拶で、調子はどうかと聞かれて「最高だ」というようなときには"Couldn't be better."という。「考え得るその他の可能性すべてを考慮しても、実際にいまそうであるよりもよくない」という形で「最高だ」と言っているのであり、Couldを用いることによってそのような仮定があることを表現している。

 

 英語でこのような言い方をするのは、英語には条件法がないからだ。条件法はフランス語やドイツ語(ドイツ語では接続法という)では普通に用いられる。フランス語には大きく分けて直説法と条件法があり、英語でCould you~と表現するような婉曲や反実仮想を、動詞の活用によって表現する。

 

 たとえば"Si j'avais le temps, je viendrais vous voir."(もし時間があれば、あなたに会いに行くのに)という文がある。avaisはavoir(英語でいうhave)という動詞の直説法反過去、viendraisは、venir(英語でいうcome)の条件法現在形である。これを英語で書くと、"If I had time, I could see you."となる。Siは英語のIfだから、Ifから始まる条件節の中で過去形を用いるという点では英語もフランス語も変わらないのだが、フランス語の場合はSiの節がなくとも、条件法現在を用いることで文の後半(je viendrais vous voir)だけで反実仮想を表現することができる。英語でこれをやるためには、たとえば"Wish you were here."のように、wishなどの動詞を伴わなければならない。ただ"You were here."では、単なる過去の事実の表明にすぎないので、「そうですか」と言われて終わりである。

 

 こちらのサイトに掲載されている「それは驚きだね」という表現(Ça m’étonne.)がある。この①Ça m’étonne.は直説法現在で、②Ça m’étonnerait.となると条件法現在である。①はそれ(Ça)が現実にありうることだという含意があり、条件法の②は「それ」が本当かどうか怪しいものだ、という気持ちが出ている。英語ならば、①はThat is surprising.、②はThat could be surprising.となるだろう。②はThatに対する信用ならない気持ちが過去形で表現されている。"A true man would not do such a thing."(真の男はそんなことをしないだろう)というような表現も同様のwouldである。過去形に頼る英語の書き方では、当然ながら「それは驚きでありえただろう」とか「真の男はそんなことをしないものだった」という過去の習慣や事実に関する表明の文と読めないこともない。この例文に関するかぎり、フランス語のほうが意味合いは明瞭である。

 

 さて日本語には当然条件法なるものは存在しない。だが、「よろしいですか」と端的に言うのはなんとなく押しつけがましい感じがする。なので、多少婉曲にしたいという気持ちが「よろしかったでしょうか」という、過去形を用いた婉曲表現として出てきているのではないだろうか。そしてそれは英語でも用いられている、「過去形による婉曲化」なのである。


 以上の議論を踏まえたうえで、「よろしかったでしょうか」は、ムカつくので言わないで欲しいと思う。商取引における事実関係の確認なのであるから婉曲云々ではなく「よろしいですか」と言い切るべきである。

 

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YouTubeの低評価非表示が、なぜ納得できないのか

 YouTube動画の低評価数が非表示になる仕様変更が賛否を呼んでいる。表向きのアナウンスとしては「クリエイターに対する誹謗中傷を防ぐため」ということになっているが、ユーザーからは不満の声の方が多いようである。視聴者に対しては表示されないけれども動画の投稿者本人は動画に対する高評価・低評価の数が依然として分かる仕様になっているため意味がないとの指摘もある。あえて低評価が付くような、釣り動画やネタ動画を投稿して再生数を稼いでいるYouTuberもおり、そういう投稿者からすればほとんど死亡宣告にも等しい仕様変更だろう。高評価にせよ低評価にせよ、動画に対して一定の働きかけがあるということはそれ自体が投稿者にとっては貴重なものである。だがそれを別にしても、全般的な反応はやはり非表示に対して否定的なものだ。11月11日にYouTubeの公式が投稿した低評価数を非表示にする仕様変更を伝える動画そのものが、数万件の高評価に対して数十万件の低評価が押されている。


 なぜ低評価数が表示されなくなってしまうことが、スムーズに受け入れ難いことなのか。これはまさに、低評価数を非表示にする旨を伝える動画の低評価数が多いためみなが受け入れていないということがわかるという、入り組んだ事実がヒントになる。
 現代はコンテンツで溢れている。ある調査によれば、1分間にYouTube動画は500時間分投稿され、Facebookには26万件の新規投稿がなされ、Instagramには34万件の写真がアップされ、Amazonには6,659点の新規商品が出品されているという。あまりにも情報が過剰だ。こうなると、「そもそもどのコンテンツを見ればいいのか」ということさえわからなくなってしまう。


 このように取るべき行動が分からないとき、人間が参考にするのが「ほかの人はどのようにしているか」だ。YouTubeの動画は、再生されるものはすごく再生されるし、再生されないものは全然再生されない。うまくブームに乗った動画は何万回と再生される一方で、乗れなければ数十回、場合によっては数回しか再生されない動画がある。この背景にあるものは、「ユーザーは結局他のユーザーが見ているものを見ようとする」という行動原理である。どのコンテンツを選ぶべきかわからないときは、とりあえず他の多くの人が選んでいるものを選ぼうとするだろう。その結果として、再生数が伸びた動画はさらに伸び、伸びない動画はずっと伸びない状態にとどまってしまうのである。


 動画を開いたあとも、それを視聴し続けるべきなのかどうか。最後まで視聴したならば、その動画の内容や主張を是として良いのかどうか。一般的な意見はどうなのか。こうしたことが、多すぎるコンテンツのためによくわからない、判別しかねるという状況に多くの視聴者が置かれている。
 そのような状況では、何かしら判断の材料となる指標が欲しくなるのは当然である。動画を観て「面白いな」と思っても低評価が多ければ一般的には受け入れられていないことなのだとわかるので、表立って賞賛することは回避することになる。高評価が多ければ安心して自分も賛同者の列に連なることができる。


 このように「他の人がやっている・言っていることによって自分の意見を確認する」というような心の働きを心理学では「社会的証明 Social Proof」という。どのように行動すればよいかわからないとき、人はとりあえず周りの人と同じように振る舞おうとする。とりわけ現代のコンテンツの大洪水の中にあっては、多くの人は「周りの人がどう評価しているのか」という指標がなければ身動きが取れなくなってしまう。


 テレビのワイドショーというものはそういう作りになっている。コメンテーターはわざとらしく、犯罪の容疑者や不祥事を起こした会社の役員などに憤ってみせる。それを見た視聴者は、自身の中にある勧善懲悪的な感情を承認された気分に浸ることができる。ワイドショーは社会的証明の原理を用いたストレス発散装置だ。あるいはバラエティ番組でSEとして追加される笑い声も「ここで笑ってもいいんですよ」という社会的証明を暗に提供することで、視聴者が安心して観ることができるようにしている。


 逆の社会的証明もある。たとえば自殺や犯罪の報道が、自殺や犯罪を呼び起こすことがある。また「壊れ窓理論」として知られているが、放置されている空き缶が一つでもあるとそこに次々にゴミが放置されていくようになるということがある。この場合は「そこに空き缶を放置した人がいる」という事実が社会的証明となって、一般的な規範には反する「空き缶を放置する」という行為に承認が与えられたような気分にさせてしまう。


 要するに、どのコンテンツを観るべきかさえ分かりづらくなっているコンテンツ大氾濫の時代には、人間には「ほかの人がどう評価しているか」という社会的証明によってラクをしたいという欲求がある。そしてコンテンツにおける再生回数や高評価・低評価数、他の人のコメントなどは、その判断材料として皆が何よりも求めているものなのである。だから、YouTube側の真意は測りかねるが、ともかくもその材料が隠されて「ほかの人がどう考えているか」がわからなくされてしまうのは、人間の認知的にものすごくストレスなのである。これは実際のコンテンツが良質かそうでもないかということとはまったく関係のないことだ。YouTubeとしては低評価の多いコンテンツに自社の広告が表示されるのを嫌う広告主の意向を反映しているということなのであろうが、コンテンツがあり、他の人の動向があり・・・という情報の中で世論や周囲の見解を知ろうと思っているユーザーにとっては改悪以外の何ものでもないであろう。


 また投稿者の立場から言えば、視聴者がYouTube上で投稿者に対する他の視聴者からの一般的な評価を知ることが難しくなるので、新規の視聴者を獲得していくことが難しくなるだろう。新たにその投稿者の動画を観たひとが、高評価・低評価の数の割合からどういう評価をされている投稿者なのか瞬時に判別できなくなるからだ。今後はすでに一定の知名度を獲得している投稿者がさらに強化されていくか、あるいは投稿者がYouTube以外の場所で知られるようになって、その知名度をベースに動画コンテンツだけが便宜的にYouTube上で提供される、というような形に収斂していくだろう。つまり、YouTube上では見知らぬコンテンツに対する評価を下す材料が提供されないため、新しいファンはファンになっていいという確信をYouTube上(だけ)で獲得できなくなっていくだろう、ということだ。それと同時に、きちんとしたコンテンツを配信している投稿者には、動画を視聴したうえで自分の判断でフォロー(チャンネル登録)する主体的なファン層が形成できるようになっていく。


 いずれにしても、これまでのいわゆるYouTuber的なおもしろさはかなり減殺されていってしまうことだけは確実だろう。「こんなクソ動画なのに低評価がほとんど付いてないな」とか「良い内容なのに低評価が割と多くて投稿者も大変だな」とか、そういった感想も含めてのYouTubeだったはずだ。なんといっても人間は社会的動物である。視聴者は他のユーザーのコメントが流れてくるニコニコ動画に流れていくかもしれない。

 

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影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

「壊れ窓理論」の経営学 犯罪学が解き明かすビジネスの黄金律